恒温恒湿器と防湿庫は、どちらも湿度を扱う装置ですが役割はまったく違います。試験と保管、どちらに使うかで選ぶべき機器は決まります。
恒温恒湿器は、槽内の温度と湿度を設定した条件に保つ装置です。温湿度と時間をプログラムで制御でき、任意の環境を人工的につくり出せます。構成は試験槽・冷却機器・加熱加湿機器・送風機・温湿度センサー・温湿度コントローラー(制御部)で、冷やす・温める・加湿するといった機能を組み合わせて狙った条件を目指します。
運転方法は、一定条件を保つ定値運転と、温度・湿度・時間のステップを組んで条件を変化させるプログラム運転の2種類です。プログラム運転を使えば温湿度サイクル試験もでき、特定の環境に一定時間置いた供試品への影響を評価できます。恒温恒湿器は、保管ではなく「試験環境をつくる装置」です。
参照元:地方独立行政法人京都市産業技術研究所「恒温恒湿槽 仕様書」(https://tc-kyoto.or.jp/app/uploads/2025/06/02_siyousyo_kouonkousitu.pdf)
参照元:千葉県「主要設備(恒温恒湿器):産業支援技術研究所・加曽利庁舎」(https://www.pref.chiba.lg.jp/sanken/kikisetsubi/environmental/chamber/thn062pd.html)
防湿庫は、庫内の湿度を低く保って保管物を湿気による劣化から守る保管庫です。研究・産業分野ではデシケーターとも呼ばれます。吸湿性・潮解性のある試料や試薬、半導体電子部品、防錆が必要な部品の保管に使われています。
電気で除湿する全自動タイプは、電子ドライユニットやペルチェ式除湿ユニットで庫内を除湿します。庫内は30~50%RH程度の低湿度に自動で維持されます。乾燥剤を入れて保管する方法と違って交換の手間がかからず、湿度を下げすぎずに一定範囲で管理できる点がメリットです。
参照元:デジカメ Watch「【2020梅雨版】機材管理・保管時のポイントとは?(防湿庫編)」(https://dc.watch.impress.co.jp/docs/review/special/1260570.html)
参照元:モノタロウ「デシケーター ドライキャビ 中湿度用(30%RH)低価格高性能 EXシリーズ 防湿庫」(https://www.monotaro.com/g/06909689/)
両者の違いを一言でまとめると、恒温恒湿器は「温度と湿度の両方を自在に変えて試験する装置」、防湿庫は「湿度を下げて保管する装置」です。主な違いは次のとおりです。
| 比較項目 | 恒温恒湿器 | 防湿庫 |
|---|---|---|
| 目的 | 製品・部品の評価試験 | 保管物を湿気から守る |
| 制御対象 | 温度+湿度(冷却・加熱・加湿を組み合わせて制御) | 湿度のみ(除湿中心) |
| 温湿度範囲の例 | -40~+100℃、20~98%rh | 30~50%RH程度(到達湿度は周囲の温度・湿度で変化) |
| 運転方法 | 定値運転・プログラム運転 | 設定湿度の自動維持 |
| 電源の例 | AC200V 三相 | AC100V |
| 給排水 | 加湿用の給水・排水が必要 | 不要 |
注意したいのは、防湿庫は温度を制御しない点です。業務用防湿庫の中には、加湿・冷却・加温の機能を持たないことを明記している製品もあります。到達湿度も設置場所の温湿度に左右されるため、試験のように条件を厳密に再現する用途には使えません。
参照元:地方独立行政法人京都市産業技術研究所「恒温恒湿槽 仕様書」(https://tc-kyoto.or.jp/app/uploads/2025/06/02_siyousyo_kouonkousitu.pdf)
参照元:モノタロウ「デシケーター ドライキャビ 中湿度用(30%RH)低価格高性能 EXシリーズ 防湿庫」(https://www.monotaro.com/g/06909689/)
引用元:モノタロウ「デシケーター ドライキャビ 中湿度用(30%RH)低価格高性能 EXシリーズ 防湿庫」(https://www.monotaro.com/g/06909689/)
恒温恒湿器そのものにも複数のタイプがあります。詳しくは以下ページをご覧ください。
部品や製品の耐久性・信頼性を評価したいなら、恒温恒湿器一択です。高温高湿、低温、温湿度サイクルなど、市場で製品がさらされる環境を再現して劣化の有無を確かめるには、温度と湿度の両方を設定どおりに制御できる装置が欠かせません。
プログラム運転では、「25℃・80%で1時間→65℃・75%で2時間→40℃・70%で30分」のように、条件を段階的に切り替えながら連続して試験できます。特定の温湿度に一定時間さらした供試品の変化を評価できるため、開発段階での信頼性確認や品質保証の試験に向いています。一般的な防湿庫は温度を変えられず、湿度も除湿方向にしか動かせないため、こうした試験条件はつくれません。
参照元:埼玉大学「恒温恒湿機(ヤマト科学 IG401)簡易マニュアル」(https://spe-lab.mech.saitama-u.ac.jp/T&H-regulator.pdf)
参照元:千葉県「主要設備(恒温恒湿器):産業支援技術研究所・加曽利庁舎」(https://www.pref.chiba.lg.jp/sanken/kikisetsubi/environmental/chamber/thn062pd.html)
部品や試料を湿気から守って保管したいなら、防湿庫が適しています。代表的なのが感湿性の半導体デバイスです。半導体デバイスは吸湿性があり、吸湿した状態で表面実装のリフローを行うと、内部に閉じ込められた水分が蒸気となって膨張し、樹脂の剥離やワイヤーボンドの損傷、内部クラックを引き起こします。深刻な場合は部品が膨らんで弾ける「ポップコーン」現象に至ります。
こうしたデバイスには、約30℃・相対湿度60%の環境にどれだけ置けるかを示す等級(MSL)が定められています。袋から出してから実装までの許容期間(フロアライフ)内にリフローを終えなければなりません。出荷時に乾燥剤と一緒に防湿袋へ真空封止されるほど、保管時の湿度管理が重要な部品です。
このほか、錆を防ぎたい金属部品や、吸湿性のある試料・試薬の保管にも防湿庫が使われています。
参照元:アナログ・デバイセズ「Moisture Sensitivity Level: 湿度感度レベル」(https://www.analog.com/jp/resources/glossary/moisture_sensitivity_level-msl.html)
参照元:MISUMI「デシケーター・防湿庫」(https://jp.misumi-ec.com/vona2/vm_lab/T2728000000/T2728010000/)
試験と保管の両方が必要なら、試験は恒温恒湿器、試験前後の部品保管は防湿庫と役割を分けて併用するのが基本です。除湿と加湿ができる恒湿タイプの保管庫(ウエット・キャビ WETシリーズなど)もありますが、あくまで保管用の製品です。温湿度サイクルのような試験条件をつくるには恒温恒湿器が必要です。
参照元:MISUMI「デシケーター・防湿庫」(https://jp.misumi-ec.com/vona2/vm_lab/T2728000000/T2728010000/)
恒温恒湿器は、除湿するだけの防湿庫とは違い、設置前に確認すべき条件が多い設備です。まず設置場所の環境です。周囲の温度・湿度にも運転可能な範囲があり、例えば外囲温度0~+40℃、外囲湿度75%rh以下といった条件が設けられています。
次に電源です。卓上機にはAC100Vで使える機種があり、床置きの機種では、AC200V三相・最大電流22.5Aのように専用の動力電源を求められることもあります。工場内で電源工事が必要になるケースも想定しておきましょう。加湿には給水も欠かせません。装置内部の給水タンクにポンプで給水する方式のほか、大型の恒温恒湿室では上水道への接続や排水経路の確保が求められます。
参照元:熊本県立大学「人工気候室(恒温恒湿室)構成機器等 仕様書」(https://www.pu-kumamoto.ac.jp/sys/wp-content/uploads/2021/12/2998-02shiyo-jinkikou.pdf)
参照元:地方独立行政法人京都市産業技術研究所「恒温恒湿槽 仕様書」(https://tc-kyoto.or.jp/app/uploads/2025/06/02_siyousyo_kouonkousitu.pdf)
参照元:熊本県立大学「人工気候室(恒温恒湿室)構成機器等 仕様書」(https://www.pu-kumamoto.ac.jp/sys/wp-content/uploads/2021/12/2998-02shiyo-jinkikou.pdf)
導入費用やランニングコストの目安は、以下ページでまとめています。
防爆構造・耐食構造になっていない標準的な恒温恒湿器には、入れられない試料があります。可燃性・引火性・揮発性の物質、酸性・アルカリ性などの腐食性物質を含む試料です。庫内に臭いが付着するおそれのある物も避けたほうが無難です。試験したい自社製品に樹脂や接着剤、薬液などが含まれる場合は、該当しないか事前に確認しましょう。
試料の置き方にも注意が必要です。試料同士は間隔をあけて置き、槽内の風通しを確保します。詰め込むと温湿度分布が悪くなり、誤差の大きい試験結果につながります。
参照元:千葉県「主要設備(恒温恒湿器):産業支援技術研究所・加曽利庁舎」(https://www.pref.chiba.lg.jp/sanken/kikisetsubi/environmental/chamber/thn062pd.html)
恒温恒湿器を安定して使うには、日常の運用ルールを決めておくことが大切です。主なポイントは次のとおりです。
参照元:埼玉大学「恒温恒湿機(ヤマト科学 IG401)簡易マニュアル」(https://spe-lab.mech.saitama-u.ac.jp/T&H-regulator.pdf)
具体的な手順や頻度は機種ごとに異なるため、取扱説明書とあわせて確認してください。清掃や定期点検については以下ページで解説しています。
恒温恒湿器は温度と湿度を制御して「試験環境」をつくる装置、防湿庫は湿度を下げて「保管物」を守る保管庫です。部品の耐久性や信頼性を評価したいなら恒温恒湿器、電子部品や試料を吸湿から守りたいなら防湿庫を選びましょう。恒温恒湿器を導入する際は、電源・給排水・設置環境・試料の条件を事前に確認しておくことが重要です。



※1 オプションのタンクを増設した場合の連続運転時間
※2 参照元:【PDF】安定性試験チャンバー|ナガノサイエンス公式(https://www.naganoscience.com/ja/wp-content/uploads/2023/11/NST_2023all_1127.pdf)