航空宇宙機器の開発において地上での環境試験は重要です。過酷な飛行環境では打ち上げ後の修理が困難なためです。本記事では責任者様に向けて、4つの環境試験の概要と再現する装置条件を解説します。
航空宇宙分野の部品や機器は、運用中や輸送中に地上とは全く異なる過酷な特殊環境に晒されます。そのため、宇宙空間や飛行環境を模した適切な環境試験を行い、事前に不具合を検出することが不可欠です。航空宇宙分野の過酷な特殊環境を模した代表的な4つの試験について、目的と不具合事例を解説します。
※テスト要件に関しては、RTCA DO-160やMIL-STD-810 / 461などの国際標準規格に準じていること、また機器の輸送、保管、運用、そして緊急事態に至るまでの、LCEP(ライフサイクル環境プロファイル)に基づいて再現していることが重要です。
温度・減圧複合試験は、低気圧と温度変化が合わさった複合環境下において、電子部品や機器が安全かつ正常に動作するかを評価する試験です。主に航空輸送時の与圧環境である約0.8気圧や急減圧、高地環境を想定して実施されます。この減圧環境下では、密封部からのガス漏れやコンデンサ内部の液漏れ、高電圧部でのアーク放電による短絡・発煙・発火といった深刻なトラブルのリスクが高まります。さらに、冷却ファンの効率低下や放熱量の減少によって、CPUなどの重要部品が過熱・冷却不良を起こすこともあります。宇宙機や航空機搭載機器の不具合を未然に防ぐため、実際の使用環境を想定した低圧・温度条件下での評価が不可欠です。
定加速度試験は、飛行体やロケットの移動・回転・発射時に発生する、重力以外の定常的な遠心加速度に対する部品や機器への影響を調べる試験です。直交するX、Y、Z軸の各方向から現実の使用状態を模した高ストレスを加えることで、通常の振動や衝撃試験では検出することが難しい、構造上や機械的な欠陥をあぶり出します。具体的には、半導体部品におけるワイヤの切れ、端子の外れ、あるいは基板とダイの付着性といった機械的限界や欠陥を検出することが目的です。陸上輸送機や航空機、ロケットに使用される半導体製品や電子部品の信頼性を高め、過酷な加速環境下でも機械的な限界を超えずに安定して動作することを確証するために実施されます。
振動・衝撃試験は、航空宇宙機器が輸送中や運用中に受ける機械的な振動や衝撃に対する耐性を評価する試験です。試験ではまず、規則的な揺れを与える「正弦波振動試験」によって特定の周波数での共振確認、構造的な弱点を特定します。その上で、実際の飛行環境や輸送環境に近い不規則な揺れを再現する「ランダム波振動試験」を実施し、より実践的な耐久性を評価します。さらに、落下や衝突といった短時間の強い負荷を模した「衝撃試験」を適切に組み合わせることで、突発的な衝撃への耐性も検証します。また、必要に応じて温湿度変化を同時に加える複合環境振動試験も行われ、製品のライフサイクルに合わせた動的ストレスへの耐性を網羅的に評価します。
EMC(電磁両立性)試験は、電子機器が他のデバイスに対して電磁干渉(EMI)を起こさないか、また外部からの電磁干渉(EMS:イミュニティ)に対して性能低下を招かずに安定して動作するかを検証するテストです。航空機や宇宙機といった人命やミッションの成否に直直結する機器は、電磁波が豊富な環境でも正確で信頼性の高い性能を維持しなければならないため、一般的な民生品よりも非常に厳しい規格要求をクリアする必要があります。試験では、静電気試験や電源電圧変動試験、ノイズ評価、伝導性の測定など多岐にわたる環境下での検証が行われ、予期しないエラーや機能不全による誤作動のリスクを回避し、システムの安全性と信頼性を保証します。
前述した4つの過酷な環境試験を地上で正確にシミュレートし、再現性の高いデータを取得するためには、試験機や設備に対して具体的な仕様や運用上の装置条件が厳格に求められます。各環境試験を正確にシミュレートするために求められる、具体的な装置仕様や運用条件を解説します。
地上で高度環境を正確に再現する「温度高度試験槽」には、高度に応じた精密な制御能力が必要です。具体的な装置仕様の目安として、温度制御範囲は「-55℃〜140℃」あるいはより広範な「-65℃〜180℃」に対応していることが求められます。また、圧力制御範囲については、「101.3kPa(大気圧相当)〜1.1kPa」や「0.1kPa〜101kPa(絶対圧)」まで減圧・制御できるスペックが必要です。これらの仕様を満たす試験槽を使用し、実際の航空輸送環境や急減圧環境を模した低圧・温度条件下で、試料を通電・動作させながら高精度に評価を行うことが装置条件となります。
定加速度試験では、「遠心加速度試験装置」を使用し、数十Gから数百Gの高い遠心加速度を負荷できる能力が装置条件となります。超高速回転を伴うため、試料の破損や装置の故障を防ぎ、回転時の重量バランスを均一に保つ運用ルールが極めて重要です。そのため、試験時には大型遠心機(Centrifuge)のスリップリングを介して、X・Y・Z軸の各方向に加速度を印加しながら通電・動作状態(Operational Test)での正常性を評価します。もし試験する試料数が足りない場合には、空のアダプタに必ずダミーサンプルを配置してバランスを調整しなければなりません。この厳格な設置条件が、安全で正確な試験の再現を支えています。
広帯域な試験に対応するため、高精度な制御が可能な「電動式振動試験機」と「衝撃試験機」が必要です。装置性能の目安として、振動条件では周波数「1〜2000Hz」や必要な加振力をカバーし、衝撃条件では正弦半波で「10〜1500G」といった幅広い衝撃加速度範囲に対応できるスペックが求められます。また、試験精度を担保するための極めて重要な装置条件として、試験体を振動台に強固に固定する「専用治具の剛性や重量バランス」が挙げられます。治具の設計が適切でないと過大な応答や歪みが生じるため、剛性の高い土台が不可欠です。
精密なEMC試験を再現するためには、総合的な管理やソフトウェアによる規格制御を行う「試験システム」と、実際に電磁妨害波の生成・放射・測定を行う「試験器」が高度に連携・連動している装置構成が必須の条件となります。具体的には、試験システムがソフトウェアを用いて各種規格に準じた方法で機器を制御・分析し、試験器側の信号発生器やアンプ、測定器と連動して電磁妨害波の放射や製品からの電磁波測定を行います。このシステムと試験器の一体的な連携条件により、ノイズ評価や伝導性の高精度な測定を再現し、信頼性の高い検証を可能にします。
宇宙空間や飛行環境は過酷であり、試作機を何度も製作できない航空宇宙機器の開発において、地上での徹底した環境評価はリスク最小化の要です。想定される不具合を未然に防ぐため、各試験の目的と必要な装置条件を正しく把握し、信頼性の高い環境試験を計画・実施していきましょう。



※1 オプションのタンクを増設した場合の連続運転時間
※2 参照元:【PDF】安定性試験チャンバー|ナガノサイエンス公式(https://www.naganoscience.com/ja/wp-content/uploads/2023/11/NST_2023all_1127.pdf)