恒温恒湿器の校正は、環境・信頼性試験の結果を裏付ける土台です。本記事では校正の基本から測定項目、頻度、依頼方法までを整理します。
恒温恒湿器の校正とは、槽が示す(または設定した)温度・湿度と、基準となる標準器の値を比較し、どれだけずれているかを把握する作業を指します。
ここで重要なのは、校正はずれを「確認」する行為であり、ずれそのものを修正する「調整」とは明確に区別される点です。校正の結果ずれが判明した場合に、必要に応じて調整や修理を行います。
また、日常的な動作確認である「点検」とも目的が異なり、校正は標準器との比較によって定量的にずれを評価します。この違いを正しく理解しておくことが、適切な測定器管理の第一歩となります。
恒温恒湿器の校正が重要なのは、槽内の温湿度が正確でなければ、そこで得た試験データそのものの信頼性が揺らぐためです。
環境試験や信頼性試験の数値が実際とずれていれば、製品の品質や仕様を一定に保つことができません。社内の検査では問題なく通過しても、納入先で仕様に適合していないと判断されれば、企業としての信頼を損なうおそれがあります。
定期的な校正によって槽の正確性を維持することが、試験結果の裏付けと、自社製品の品質保全に直結します。
もう一つの理由が、トレーサビリティの確保です。トレーサビリティとは、ある測定器が国家計量標準につながっていることを確認する、切れ目のない校正の連鎖を指します。
校正に用いる標準器は、より上位の標準器で校正され、それを繰り返して最終的に国家計量標準へとたどり着きます。日本にはこの仕組みを支える計量法トレーサビリティ制度(JCSS)があり、登録された校正事業者が国家標準につながった標準を供給しています。
この連鎖を確保することで、試験データの客観的な信頼性を対外的に示すことができます。
校正の対象となるのは、恒温恒湿槽をはじめ、恒温槽、恒温器、環境試験器、冷熱衝撃試験装置などです。
校正項目は主に温度・相対湿度・露点の3つで、機器の用途に応じて必要な項目を選びます。第三者校正機関である日本品質保証機構(JQA)の例では、校正範囲は温度が-80℃~950℃、相対湿度が10%~98%、露点が-10℃~85℃とされています。
ただし、実際の校正範囲や不確かさ、出張校正の可否は校正事業所ごとに異なるため、依頼前に対応範囲を確認しておくことが大切です。
引用元:日本品質保証機構(JQA)|恒温・恒湿槽の校正 | 計測器の校正・計量器の検定(https://www.jqa.jp/service_list/measure/service/temperature_humidity/kouon_kousitusou.html)
温度試験槽の性能確認方法は、JIS C 60068-3-5(IEC 60068-3-5)に規定されています。
同規格では、規定条件を許容値内に維持できる「有効空間」を対象に、温度検出器を各隅と中心へ配置します。容量2,000L以下では9点以上、2,000Lを超える場合は各壁面中心の前にも追加して15点以上を配置するのが望ましいとされています。
検出器には校正済みの白金測温抵抗体または熱電対を用います。測定では、有効空間中心の「到達温度」、規定点での「温度変動」、各測定点の平均温度差である「温度勾配」、中心と各隅の平均温度差である「空間温度偏差」などを評価します。
湿度分布についてはJIS C 60068-3-6が対応し、JQAではJTM K07・K09に準拠した温度・湿度分布の校正も可能とされています。
引用元:エスペック株式会社|新JTM 規格− 温度試験槽の性能試験方法及び性能表示方法[※PDF](https://www.test-navi.com/jp/report/cate/06/tech_content_no49/contents2_j.pdf)
湿度に関する校正は、対象機器の各指示値を標準器と比較して行うのが基本的な考え方です。日本電気計器検定所(JEMIC)の例では、電子式湿度計は相対湿度を、露点計は露点を、それぞれ標準器との比較によって校正します。
いずれの場合も使用する標準器は鏡面冷却式露点計です。JCSS校正の範囲は、電子式湿度計で相対湿度10%~90%・温度5℃~85℃、露点計で露点-10℃~85℃とされ、いずれも提出校正で対応されます。これらは、恒温恒湿器の湿度精度を裏付ける基礎となる考え方です。
校正の頻度に、法律で定められた一律の決まりはありません。そのため、各現場が自社の使用状況に応じて適切な周期を判断する必要があります。
一般的な目安として、まずは測定器メーカーが推奨する校正周期を参考にするとよいでしょう。そのうえで、使用頻度や測定環境の厳しさ、要求される精度、過去の校正結果におけるずれの傾向などを踏まえて周期を見直していきます。
重要な試験に用いる槽ほど短めの周期を設定するなど、リスクに応じた運用を心がけることが望まれます。
校正の依頼形態には、大きく分けて機器を校正事業者へ送る「提出校正」と、技術員が現場へ出向く「出張校正(現地校正)」があります。
恒温恒湿器のように大型で移設が難しい設備では、出張校正が選ばれることが少なくありません。校正機器メーカーであるチノーの例では、炉や恒温槽の温度分布測定、倉庫の温度マッピング、センサから受信計器までを確認するループ校正、製薬設備のバリデーション助勢などに対応しています。設備の規模や停止できる時間を踏まえて、適した形態を選ぶとよいでしょう。
参照元:株式会社チノー|フィールド点検・校正サービス業務案内[※PDF](https://www.chino.co.jp/file.jsp?id=7436&download=calibration_service_CX-151-01.pdf)
事業者を選ぶ際は、どのような認定を持つかを確認します。国家標準へのトレーサビリティを示すJCSS、試験所の能力を示すISO/IEC 17025、そして国際的な認定機関であるA2LAへの対応などが判断材料になります。あわせて確認したいのが、発行される書類です。校正証明書・基準器検査成績書・トレーサビリティ体系図をセットで用意することで、その機器が国家計量標準に対してトレーサブルであることを証明します。これらが揃って発行されるかどうかを、依頼前に確認しておくと安心です。
費用は、校正項目や点数、依頼形態によって変わります。参考として、JEMICが公表する湿度関連のセット校正手数料の例では、電子式湿度計が19,100円、露点計が90,500円(いずれも税別)とされています。これはあくまで湿度計単体の校正例であり、恒温恒湿器本体の温湿度分布校正や出張校正では、槽の容量や測定点数に応じて費用が変わります。正確な金額は、事前に見積もりで確認しましょう。
引用元:日本電気計器検定所(JEMIC)|JCSS校正[※PDF](https://www.jemic.go.jp/wp-content/themes/jemic/kousei/jcss-kakuchou-plt.pdf)
恒温恒湿器の校正は、槽の温湿度と標準器の値を比較してずれを把握し、試験データの信頼性とトレーサビリティを支える重要な工程です。温度・相対湿度・露点を対象に、JIS C 60068-3-5などの規格に沿って有効空間の分布を評価します。頻度に法的な決まりはないため、メーカー推奨周期や使用状況をもとに設計しましょう。事業者選びでは認定と証明書類を確認し、設備に合った依頼形態を選ぶことが、確かな品質管理につながります。



※1 オプションのタンクを増設した場合の連続運転時間
※2 参照元:【PDF】安定性試験チャンバー|ナガノサイエンス公式(https://www.naganoscience.com/ja/wp-content/uploads/2023/11/NST_2023all_1127.pdf)