温湿度サイクル試験で何が評価でき、どの規格に準拠すべきか。試験選定と計画立案に必要な要点を整理します。
温湿度サイクル試験とは、試験雰囲気の温度と湿度をサイクル状に繰り返し変化させ、製品や試験片の性能変化を評価する環境試験です。高温高湿や低温低湿といった環境を繰り返し作り出し、製品への影響を調べます。一定の温湿度を負荷し続ける高温高湿試験とは異なり、温度・湿度変化そのものの影響を評価するため、より幅広い環境変化を想定できる点が特徴です。湿度のサイクルを負荷することで、外気と試料内の温度差による結露を生成させて吸湿を加速させたり、温度変化による材料の熱膨張差による変形を評価したりできます。家電製品、自動車部品、電子機器、建築材料など、幅広い製品に適用されます。
温湿度サイクル試験の目的は、温度と湿度の繰り返し変動によって生じる劣化を短期間で加速し、製品の耐環境性を評価することにあります。具体的に評価できるメカニズムは、大きく「結露」「呼吸作用」「熱膨張差」の3つに整理できます。それぞれが異なる故障モードに対応するため、狙う劣化に応じて試験条件を設計することが重要です。
結露とは、表面温度が周囲の空気の露点温度より低くなったときに、水蒸気が表面に析出して水となる現象です。空気中の水分量が多いほど湿度は高くなり、湿度の高い状態から急激に冷却されることで結露が発生します。温湿度サイクル試験では、この結露を意図的に生成させることで、金属部品の腐食、回路の短絡、電子部品の絶縁劣化といった水分起因の不具合を評価します。特に電子回路を持つ電気・電子機器では、結露が内部部品に及ぼす影響が機能不全に直結するため、重要な評価項目となります。
周囲温度が変化すると、機器内部の空気が膨張・収縮し、水分を含んだ空気が機器のすき間を通って出入りします。この現象を「呼吸作用」と呼びます。温度上昇時は昇温時は周囲(外気)の温度が先に上がり、機器内部はまだ低温、つまり負圧により外部から空気が流入します。温度下降時には内部圧力が高いため水蒸気が外へわずかに放出されます。しかし放出量は少なく、内部に残った水蒸気が冷却されて結露します。サイクル数を重ねるほど内部の結露量は増加していきます。耐水試験のように水が直接入らない場合でも、温度変化によって機器内部に水分が生じるため、半密閉構造の製品では呼吸作用の評価が欠かせません。
温度が変化すると、機器を構成する材料はそれぞれの熱膨張率に応じて膨張・収縮します。異なる材料を組み合わせた製品では、この膨張率の差によって接合部に応力が生じ、変形や剥離、クラックの原因となります。温湿度サイクル試験では、湿度負荷に加えてこの熱膨張差による機械的な劣化も同時に評価できるため、材料や接合部の耐久性検証にも活用されます。
温湿度サイクル試験を計画・外注する際は、準拠すべき規格の選定が不可欠です。ここでは代表的なJIS規格2種と、車載向けの主要規格を整理します。試験の目的や対象製品によって適用規格が異なるため、事前に確認しておくことが重要です。
JIS C 60068-2-30は「環境試験方法-電気・電子-第2-30部:温湿度サイクル(12+12時間サイクル)試験方法」で、試験記号はDbです。国際規格IEC 60068-2-30に対応しています。温度変化と高湿度の組み合わせによって供試品表面に結露を生じさせ、結露耐性を評価する試験方法として広く用いられています。比較的体積の大きい供試品を含め、温度変化が繰り返され結露が生じるような条件で使用・輸送・保管される製品への適性を判定する際に適用されます。防水性や腐食耐性の評価に適した基本規格の一つです。
参照元:試験・分析.com|JIS C60068-2-30規格(https://lab.atengineer.com/kikaku/jisC60068230.html)
JIS C 60068-2-38は「環境試験方法-電気・電子-第2-38部:温湿度組合せ(サイクル)試験方法」で、試験記号はZ/ADです。この規格は、欠陥を水分の吸収ではなく呼吸作用によって発生させることを目的としている点が特徴です。他の温湿度サイクル試験と比べ、規定時間内での温度上下回数が多く、温度変化の範囲が広く、変化速度が速く、0℃以下の温度サイクルを含むなど、試験の厳しさが強められています。小型または体積の小さい供試品に適用されます。
参照元:試験・分析.com|IEC 60068-2-38規格(https://lab.atengineer.com/kikaku/iec60068238.html)
車載電装品や電子制御ユニット(ECU)を対象とする場合は、ISO 16750-4「Road vehicles — Climatic loads」やJASO D014-4「自動車部品―電気・電子機器の環境条件及び機能確認試験―第4部:気候負荷」が用いられます。JASO D014-4はISO 16750-4の湿熱サイクルに相当し、水分起因のリーク電流増加など車載環境特有の故障モードを想定した評価に適しています。
参照元:試験・分析.com|ISO 16750-4規格(https://lab.atengineer.com/kikaku/iso167504.html)
参照元:試験・分析.com|JASO D014-4規格(https://lab.atengineer.com/kikaku/jasod0144.html)
温湿度サイクル試験の条件は、対象製品の使用環境や準拠規格に応じて設定します。ここでは判断の目安となる具体例を示します(数値は各試験所の公開情報に基づく一例です)。車載ECUを対象とした例では、温度範囲は-10℃~+65℃、湿度範囲は95%RH付近、サイクル時間は8~24時間、サイクル回数は10~20サイクル以上といった条件が示されています。車載コネクタでは温度-40℃~85℃、湿度85~95%RH、10~1000サイクルと、より広い範囲で設定される例もあります。JIS C 60068-2-38に準拠したプロファイル例では、+65℃・+25℃・-10℃の各温度域をT1~T11の期間に分け、湿度はT1~T3で93±3%RH、それ以外の期間で80%RH以上といった細かな設定が用いられます。狙う劣化メカニズム(結露・呼吸作用・熱膨張差)を明確にしたうえで、温度範囲・湿度・昇降温速度・サイクル数を決定することが、精度の高い評価につながります。
参照元:車載ECUの信頼性評価:温湿度サイクル試験 | Humidity cyclic | comquda(https://comquda.co.jp/service_menu/ecu_evaluation/temperature-and-humidity-cycle/)
参照元:温湿度サイクル試験とは? |車載コネクタの信頼性評価受託サービス | comquda | コンクーダ(https://comquda.co.jp/contents/test/contents8/)
参照元:クオルテック|温湿度サイクル試験 (https://www.qualtec.co.jp/)
温湿度サイクル試験は、名称や評価対象が近い他の試験としばしば混同されます。試験選定を誤ると必要な劣化を再現できないため、それぞれの違いを理解しておくことが重要です。
高温高湿試験は、一定の高温・高湿環境を継続的に負荷し、試料内部への水の吸着・拡散による絶縁劣化や腐食を評価する試験です。これに対し温湿度サイクル試験は、温度・湿度を繰り返し変化させることで、結露や呼吸作用、熱膨張差といった「変化」に起因する劣化を評価します。定常状態の吸湿を見るか、変動による影響を見るかが両者の本質的な違いです。
温度サイクル試験は湿度を伴わず、低温と高温の温度変化のみを繰り返して熱膨張・収縮による応力を評価する試験です。熱衝撃試験は、高温と低温の切り替えを短時間で行い、急激な温度変化による機械的ストレスを評価します。いずれも湿度要素を含まない点が温湿度サイクル試験との違いで、結露や呼吸作用による水分起因の劣化は評価対象になりません。
温湿度サイクル試験には、温度と湿度を自由に制御できる「恒温恒湿槽」を使用します。恒温恒湿槽は温湿度を変化させて製品にストレスを負荷し、耐久性や安全性を評価する装置で、温湿度サイクル試験のほか高温高湿試験にも対応します。主な対象製品は、電子部品や液晶・有機ELディスプレイを使用した製品、携帯電話、ノートPC、タブレット、デジタルカメラ、時計、車の電子部品・車載ユニット、家電、樹脂成形品、塗装、接着剤、リチウムバッテリー、太陽電池モジュールなど多岐にわたります。得られるデータとしては、温度・歪み・回路電圧などが挙げられます。
温湿度サイクル試験は、温度と湿度の繰り返し変動によって生じる結露・呼吸作用・熱膨張差を評価し、製品の耐環境性を検証する試験です。準拠規格はJIS C 60068-2-30や-38、車載向けのISO 16750-4・JASO D014-4などがあり、目的や対象製品に応じて使い分けます。まず評価したい劣化メカニズムを明確にし、それに合わせて規格・条件・設備を選定することが、信頼性の高い評価と適切な外注先選定につながります。



※1 オプションのタンクを増設した場合の連続運転時間
※2 参照元:【PDF】安定性試験チャンバー|ナガノサイエンス公式(https://www.naganoscience.com/ja/wp-content/uploads/2023/11/NST_2023all_1127.pdf)