屋外で使う製品の耐食性を大きく左右する塩分。塩水噴霧試験(SST)の規格・試験条件・判定基準を、実務で押さえるべき要点に絞って解説します。
塩水噴霧試験(SST:Salt Spray Test)とは、試験片に塩水を噴霧して腐食を促進させ、材料や製品の耐食性を評価する試験です。屋外での表面劣化は海塩粒子や融雪塩など大気中の塩分が主要因となるため、金属材料やめっき皮膜、塗装皮膜の耐食性を疑似的に評価できます。対象は金属や表面処理品のほか、自動車部品や電子機器、沿岸・積雪地域の建築外装材など幅広く、品質管理や従来品と開発品の比較試験に活用されています。
塩水噴霧試験には、試験方法別・材料別に複数の規格があります。中核となるのはJIS Z 2371(塩水噴霧試験方法)で、国際規格ISO 9227を基に作成され、その源流には米国規格ASTM B117があります。用途別では、めっきを対象とするJIS H 8502、自動車部品の電気めっきのJIS D 0201、塗膜評価のJIS K 5600-7-1、自動車材料・部品の複合サイクル試験を規定するJASO M609・M610などがあり、評価する材料に応じて適切な規格を選定することが重要です。
中性塩水噴霧試験(NSS)は、pH6.5〜7.2に調整した5%塩化ナトリウム水溶液を35±2℃の噴霧室で噴霧する、最も標準的な方法です。溶液の酸化力が比較的低く時間をかけて評価するのが一般的で、めっきや塗装などの表面処理品や一般材料の耐食性評価に広く採用されています。海塩ミストがかかる海岸地域の腐食結果と比較的一致するとされます。
引用元:エボルテック株式会社|塩水噴霧試験とは?判定基準や評価項目、SST・CCTなどの違いも解説(https://evoltech-shiken.com/column/353/)
酢酸酸性塩水噴霧試験(AASS)は、5%塩化ナトリウム水溶液に酢酸を加え、噴霧液のpHを3.1〜3.3まで下げて腐食環境を厳しくした方法です。腐食性の強い環境で使うめっき品や、短時間で腐食を進めたい場合に適します。なお亜鉛は酢酸で溶解するため、この試験には適用できません。
引用元:株式会社ケミコート|塩水噴霧試験に関するまとめ(https://www.chemicoat.co.jp/column/column-257/)
キャス試験(CASS)は、酢酸酸性の塩水にさらに塩化銅(II)二水和物を約0.26g/L加え、50℃という高温で行う非常に厳しい腐食促進試験です。銅の添加でイオン化傾向を高めており、クロムめっきやニッケルめっき、陽極酸化処理を施したアルミ合金など高耐食材料の評価に用いられます。
引用元:株式会社ケミコート|塩水噴霧試験に関するまとめ(https://www.chemicoat.co.jp/column/column-257/)
複合サイクル試験(CCT)は、塩水噴霧に乾燥・湿潤・冷却などの条件を周期的に組み合わせる試験です。連続して塩水を噴霧するSSTに対し、CCTは環境を繰り返し変化させるため、より実環境に近い腐食を再現できます。近年は自動車部品などで採用が増えており、JIS H 8502やJASO M609などに条件が規定されています。
試験用塩溶液は、JIS K 8150に規定する特級の塩化ナトリウムを、電気伝導率20μS/cm以下の脱イオン水または蒸留水に溶かし、濃度50g/L±5g/L(比重1.029〜1.036)に調製します。中性塩水噴霧試験では、噴霧室で採取した噴霧液がpH6.5〜7.2の範囲になるよう管理します。pHは空気中の二酸化炭素で変動しやすいため、水酸化ナトリウムや塩酸を用いてこまめに測定・調整することが、正確な結果を得る鍵となります。
引用元:群馬県立産業技術センター|塩水噴霧試験機のご紹介(https://www.tec-lab.pref.gunma.jp/intro/business/s-800/)
試験装置は、噴霧塔(アトマイザー)や試験片保持器、噴霧液採取容器を備えた噴霧室、圧縮空気供給器、空気飽和器などで構成されます。重要なのは噴霧の量と質を均一に保ち、温度を一定に維持することです。噴霧室内は中性・酢酸酸性で35±2℃、キャス試験で50±2℃に制御します。噴霧液は試験片に直接かからない自由落下とし、採取容器を2か所以上に置いて、約80cm²あたり1時間平均1.5±0.5mLの採取量を確認します。
試験片は150mm×70mm×1mmの平板が望ましく、噴霧室内では鉛直線に対して20°(15〜25°の範囲)に傾けて配置します。表面が噴霧液の自由落下にさらされ、他の試験片に滴が落ちないよう間隔を確保します。試験時間は材料や製品規格の規定に従い、規定がなければ当事者間の協定によります。推奨時間は2・24・48・96・240・1000時間などが挙げられています。
引用元:エボルテック株式会社|塩水噴霧試験とは?判定基準や評価項目、SST・CCTなどの違いも解説(https://evoltech-shiken.com/column/353/)
塩水噴霧試験の判定基準は規格で一律に定められておらず、受渡当事者があらかじめ決めた基準で評価するのが一般的です。代表的な評価項目は、錆の色や量・塗膜の膨れや剥離を確認する外観観察、試験前後の質量差から評価する腐食減量法、孔食深さの測定などです。腐食面積の評価では、JIS Z 2371に規定されるレイティングナンバ法が用いられ、腐食欠陥を標準図と比較して数値化します。レイティングナンバは10が肉眼で識別できない状態、0が最大の腐食を示します。
試験結果の信頼性を保つには、装置の再現性を定期的に検証する必要があります。JIS Z 2371では、連続使用の場合おおむね3か月ごとに、SPCE冷間圧延鋼板(150mm×70mm×1mm)の照合試験片を用いた検証を求めています。中性塩水噴霧試験では、48時間運転で照合試験片の腐食減量が70±20g/m²であれば装置は正常とみなされます。あわせて塩水の比重や噴霧量、温度を日常的に点検し、報告書に記録することが安定した品質管理につながります。
引用元:株式会社DJK|中性塩水噴霧試験(https://www.djklab.com/service/taikyusei-3501/)
塩水噴霧試験の結果を実使用年数へ直接換算するのは難しい点に注意が必要です。一つの目安として「240時間が大気曝露約1年に相当」とされ、日本ウエザリングテストセンターのデータで銚子・直江津の腐食量とほぼ同等だったことが根拠です。ただし実環境には塩分以外の要因も多く、腐食形状も異なるため厳密には一致しません。相当年数はあくまで参考にとどめ、従来品との比較や品質管理の指標として活かすのが適切です。
引用元:エボルテック株式会社|塩水噴霧試験とは?判定基準や評価項目、SST・CCTなどの違いも解説(https://evoltech-shiken.com/column/353/)
塩水噴霧試験(SST)は、材料や製品の耐食性を評価する基本的かつ重要な試験です。まずJIS Z 2371などの規格から対象材料に合ったものを選び、NSS・AASS・CASS・CCTの中から目的に応じた種類を選定します。溶液のpHや装置の温度・噴霧量を適切に管理し、レイティングナンバ法などで判定することで信頼性の高い評価が可能です。結果は相当年数へ直結させず、比較や品質管理の指標として活用しましょう。



※1 オプションのタンクを増設した場合の連続運転時間
※2 参照元:【PDF】安定性試験チャンバー|ナガノサイエンス公式(https://www.naganoscience.com/ja/wp-content/uploads/2023/11/NST_2023all_1127.pdf)